トラブルにならないために!注意しておきたい調査後の補修工事

ローン減税など税制優遇に利用できる
「既存住宅かし保証」

建物状況調査を行うメリットの一つに、「既存住宅かし保証(以下、かし保険)」を買主様が利用できるということがあります(※検査基準に適合した場合、その他諸条件があります)。これは、引渡し後の住宅について、隠れた不具合による損害を補償してくれるだけでなく、築年数が経過した住宅でも住宅ローン減税や登録免許税など税制優遇が適用されるので、大きなメリットを享受できます。しかし、かし保険の申込は引渡し前に行わなければならず、さらに劣化箇所の指摘が一つでもあると適合とならないので、指摘された箇所に補修を施し、再検査を行い、適合するか否か再度検査を行う必要があります。
 この補修と再検査において、戸建住宅の場合はリフォームを前提とした売買も多いことから、トラブルに繋がるケースがあります。実際の事例をご紹介しつつ、トラブルを未然に防ぐための方策をお伝えします。

補修工事の基本的な考え方

「補修工事は実施したほうがいいかどうか」というご質問をいただくこともありますが、基本的に建物状況調査において不具合を指摘された箇所は、すべて補修されることをお勧めしています。例えば基礎のクラック(ひび割れ)が指摘された場合、そのまま放置したとしてもただちに問題になるものではありません。しかし、時間が経過するとひびはさらに大きくなり、そこから雨など水分が浸入、それが基礎内部の鉄筋まで達することで錆びが発生し、最終的にはコンクリートが内側から壊れる(「爆裂」といいます)など、大きな不具合につながります。ここまで劣化が進むと補修工事も莫大な費用がかかりますので、指摘された劣化事象は出来る限り放置せず、軽微なうちに補修した方がかかる費用も時間も少なくて済みます。

建物状況調査で検査している箇所は、家にとっての基本性能にあたる部分であり、設備のように「壊れたら取り替える」ということができない箇所がほとんどです。気持ちよく売買取引ができるよう、不具合が広がる前に補修工事をしておきましょう。

誰の費用負担でいつ直すのか

さて、補修工事を行うにあたって悩ましいのは「誰が」「いつ」直すのか、という問題です。実例から申し上げると、これは「買主様がかし保険を使うか否か」によって進め方が異なります。
 戸建住宅の場合の主な検査項目は以下です。

1:かし保険を申込まない場合
この場合は、買主様が引渡し後に、他のリフォーム工事と一緒に劣化事象の補修工事を行うのが一般的です。他の工事と一緒にやることで、補修にかかるコストも相対的に抑えられるというメリットがあります。  また、補修というレベルで工事をするのか、それとも該当箇所のグレードアップを考えるのか、選択肢も広がります。(例えば壁の劣化の際に、補修をするのか、壁自体を取り換えて建物の外観を模様替えするのか、など)
2:かし保険を申込む場合
住宅ローン減税を使いたいなどの要望が買主様からあり、かし保険を使う場合には、補修工事について少し検討が必要です。
かし保険を使う際には、原則として引渡しまでに保証をつけるという条件があるため、流れとしては

① 引渡しを受けるまでの間に、売主様・買主様どちらかの費用負担で補修工事を実施
② 再検査を実施(再検査は有料)
③ 指摘項目をすべてクリア、適合通知を受ける
④ かし保険の申込み、保証書の発行
⑤ 引渡し

というフローになります。

これらの条件を踏まえ、売主様の売却活動が本格化する前に補修工事を行うケースは多くあります。この際売主様側のメリットとして、検査に適合した場合、築年数が20年を超えた物件でも諸条件を満たせば、購入検討者に「ローン減税が適用できる」旨を伝えられ、他物件と差別化をはかれます。また事前に補修工事を行うことで、かかった費用を踏まえた売出し金額を検討することも可能です。例え数十万円上乗せした金額を設定したとしても、住宅ローン減税や各種税制優遇を使えることで総額的には買主様にとってもお得になった、といったような声をいただいたこともありました。
 対して買主様の費用負担でリフォームをする場合には、購入物件が確定する、すなわち売買契約後に工事に入るのが一般的かと思われます。その際、売買契約時に「引渡し前先行リフォームの特約」等の条件を盛り込んだ上で、引渡し前に買主様負担で補修を行い、かし保険をつけている例があります。
まだ売主様の所有物であるうちに工事を行うことになりますので、なにかあった際にトラブルにならないように準備しておくことが重要です。

補修工事を巡る実際のトラブル事例

建物状況調査やかし保険について、仲介会社から説明がないまま契約し、その後補修をめぐるトラブルになる例が散見されます。

【かし保険の利用に絡んだトラブル事例】
売買契約後に、築20 年を経過した戸建住宅でも、かし保険を使えばローン減税が受けられることを買主様が知り、なんとかしてかし保険を申込もうとしました。ところが、建物状況調査を行ってみたものの指摘事項が見つかったことで、補修工事の段取りや費用負担、再検査の日程など、不動産会社様にとっても様々な調整が発生し、加えてそもそも調査について説明をあまり受けていない売主様との間で、「契約になかった調査の実施を許可したのに、さらに工事をするなんてまった く聞いていない」とトラブルになり引渡し・取引終了までの時間もさらにかかることになってしまいさらにクレームが大きくなってしまいました。

このように売買契約が終った後に検査、補修を行う流れとなる場合、「補修工事なんて聞いていない、居住中で時間も取れないから許可したくない」という売主様と、「きちんと事前にかし保険を説明されていれば、契約前に検査してローン減税できたのに、ちゃんと責任もってかし保険を利用できるようにしてもらえないと困る」という買主様との間で不動産会社様が板挟みになってしまうトラブルもお聞きします。

 さらにこういったケースで、「売主様・買主様のどちらが補修や再検査にかかる費用を負担するか」ということも問題となることもあります。この場合も、契約前に検査を実施し結果が把握できていれば、補修費用含めての条件調整の内容を契約に盛り込むことができます。例えば売主様側が補修費用をもつ代わりに値引きはなし、買主様が費用負担する場合、売主様が居住中の中で、補修工事のみ先行でリフォームを行う旨の覚書を締結するなど、やり方は様々です。

建物状況調査とかし保険の説明は、契約前に双方に早めに説明を行い、もしも買主様がかし保険を希望する場合には、予めきっちりと双方を調整しておくことが大事です。

かし保険を申込む場合、
補修工事はどこまでするべきか?

「補修工事をどこまで実施すれば瑕疵保険の基準に適合となるのか」については、原則的には以下のような処置が施されていることが必要となります。

構造耐力上主要な部分の劣化事象

指摘箇所に補修工事を行い、その部位が有するべき性能を満たすだけの措置が施されていることが確認できる

雨水の浸入を防止する部分の劣化事象

指摘箇所に雨水の浸入を防ぐことができる措置が施されていることが確認できる

ただ事象毎に求められる条件は個別に異なりますので、実際に補修工事を行うリフォーム会社の担当者と相談し、「かし保険に適合となるよう補修してほしい」と不具合箇所を見てもらうのが一番よいかと思います。
 なお、補修方法や基準の目安となる方法としては、弊社よりご提出している「建物状況調査報告書」の末尾に、補修工事を行う場合の注意点について記述されおり、その中に公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」に関して記載しております。

■補修方法・基準について

特に弊社が補修方法を指定するものではありませんが、補修方法や基準の目安として、以下の財団法人様HPに記載されている方法をご紹介致します。

公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター
住宅の調査と補修 補修方法・工事費用編

https://www.chord.or.jp/reference/sr/hs
  • googleなどで「住まいるダイヤル」で検索
  • TOPページの最下段にある「住宅の調査と補修」をクリック
  • 住宅紛争処理技術関連資料集農地、「補修方法・工事費用編」(緑のフォルダ)をクリック

なお、弊社はあくまでの調査会社であり、補修箇所の補修方法について具体的な措置などのお問い合わせや要望をいただいても、内容によってはお答えできないこともありますので、予めご了承ください。

補修工事前に追加調査が必要な場合も

建物状況調査で分かるのは、あくまでも劣化事象の有無となります。そのため劣化事象が発見されてもその原因の追究、例えば雨漏りの原因がどこから発生しているのか、白アリが発見された場合の駆除範囲や方法の特定などは、追加の調査をしないと原因が特定できない場合もありますのでご注意ください。
 なお、国土交通省が制定した「既存住宅インスペクションガイドライン」における「2次的なインスペクション」がこの概念にあたり、全体に対して劣化事象がないかをチェックする「1次的なインスペクション(今回の建物状況調査にあたります)」に対して、「2次的なインスペクション」はその箇所に特化した専門調査を、それぞれの専門の会社に依頼して実施し原因の追究を行う、といった2段構えの考え方となります。

再検査について

かし保険に適合させるべく、再検査を希望する場合は、建物状況調査の報告書送付時に、再検査の申込書を添付しています。お申込みから再検査の実施までは約1週間、結果についても調査実施後約1週間でご報告します。
 かし保険は引渡しまでに申込む必要がある関係で、再検査についても引渡しまでのスケジュールを逆算して手配する必要があります。雨漏りを補修した場合の再検査については、目視確認のみだと事象が改善されているのか分からないので、原因箇所の特定と補修の経緯が分かる報告書を事前にリフォーム会社に作成いただき、弊社宛に提出いただく必要があります。

まとめ

「既存住宅かし保証」でローン減税が適用になることはあまり知られていないため、契約後にご希望されるお客様も多く、段取りにおいてトラブルが頻発しています。再検査になった場合は、かし保険の申込まで時間がかかり、さらに引渡し前にすべてを終えないといけないため調整が非常に厳しい場合が多く、クレームになりがちです。契約前に建物状況調査を行い、補修や再検査の費用負担なども含めて条件調整をするなど、早め早めの対応が仲介会社様に求められています。

公開日:2019.01.15

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