建物と石灰岩の意外な関係
今回は、3 億5000 万年前からの地球と生命のドラマを伝える山口県美祢市秋吉台の石灰岩に関連して、石灰岩が戸建て住宅にどのように関わっているかを解説します。
文=吉井孝文(よしい たかふみ)
秋吉台に家が建たなかったのは、なぜ?
秋吉台は、草原に石灰岩が露出している美しい風景の見られる場所です。なぜこのような広大な景観が残っているのか不思議に思いませんか? ここに家を建て、街をつくり、社会生活を営むこともできたのではないでしょうか?
結論から言いますと、建物を建てること自体は物理的に可能です。しかしながら、石灰岩のような炭酸塩岩類でできた大地は、二酸化炭素を含む雨水によって溶食され、地盤には多くの隙間ができています。
その結果、水はけが良すぎる土地になってしまい、耕作地としての利用が難しかったのです。日本が近代化する以前から耕作地として成り立たなかった内陸地は、秋吉台に限らず、食糧事情から集落の発展には不利でした。このような理由から秋吉台には家が建たなかったのです。
石灰岩が支える私たちの生活
我が国では、多くの人々が「沖積低地」と呼ばれる標高の低い狭い土地に集中して暮らしています。「沖積低地」とは、河川や海流によって運ばれてきた砂や粘土が堆積することで陸地となった場所です。また、人間が土砂を運びこむことで、もともと海や沼地だった場所が陸化した「干拓地」や「埋立地」も含まれます。
これらの土地は一般的に地盤が軟らかいため、建築物や土木構造物が倒れたり、沈んだりしないようその重さを支える必要があります。具体的には杭を打ったり地盤を改良するのです。
これら杭や地盤改良のための主要な資材といえばセメントと鋼材です。このうちセメントの主原料は石灰石です。また製鉄の過程においても石灰石は溶融材等として利用されています。
つまり、秋吉台のように石灰岩からなる土地は、直接に生活の舞台として成り立たないとしても、石灰石からセメントや鋼材を経て、建物を支える改良地盤というように形を変え、私たちの生活を支えてくれていると言えるでしょう。
日本随一の埋蔵量鉱物資源「石灰石」
このように重要な石灰石は、秋吉台以外ではどこに分布しているのでしょうか。
下の図4の分布図を見ると、石灰岩は帯状にまとまって規則的に分布していることがわかります。日本列島はもともと、火山を除いて、海洋プレートというベルトコンベアーにのって海嶺からやってきた海洋地殻がどんどんたまって出来た土地(付加体)です。石灰岩は一連の付加体として存在しています。それゆえに帯状に分布しているのです。
皆さんもご存知の通り、我が国は鉱物資源に限らず様々な物の確保を輸入に頼っていますところが、この石灰石は採掘コストの有利さもあって、国内自給できる珍しい鉱物資源なのです。
また、石灰石は、日本の経済発展を支えてきた陰の立役者でもあります。戦後の高度経済成長下、急速に発展を遂げた鉄鋼業やセメント業に、原料としての石灰石は必要不可欠だったのです。
そして今も尚、様々な形で私たちに豊かさをもたらしてくれています。
こぼれ話
日本国内で産出される石灰石は純度が高く、世界的にも高品位と言われています。これには2つの理由があります。
① プレートに乗って広い海洋を移動する海山で生成した生物殻が母体の石灰石は、陸地から遠く離れているため、不純物をほとんど含んでいない。
② 火山の多い日本では、熱変成作用によって結晶の純化が進み、不純物が除去される話は変わりますが、牡蠣の養殖では成長途中でカキを海岸に近い抑制漁場から沖合に移動する作業(沖出し)を行います。これは、沖合の方が餌となる植物プランクトンが多くかつ不純物の浮遊も少ないため、身入りの良い高品位な牡蠣に成長するからだそうです。
不純物が少なく良好な環境にある沖合で育まれた結果、高品位になるという石灰石と牡蠣との意外な共通点でした。
技術士(応用理学部門:地質)
地盤品質判定士
参考文献:
1. 漆原和子編(1996)「カルスト」大明堂 p.21 ~ 28
2.「 日本の白い壁 石灰がつくり出す多様な世界」(2012)LIXIL出版 p.31、35
3. 一般財団法人国土技術研究センターホームページ 2017.08.08閲覧(http://
www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary06)
4.千葉県 HP 2018.5.3閲覧https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/ bunkazai/bunkazai/p431-048.html
JHS LIBRARY 編集部
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