2017.06.08防災 , 特集

【専門家に聞く】 第2回 洪水・浸水などの「水害」に備える

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洪水・浸水などの「水害」に備える

気象予報士・防災士の蓬莱大介です。

普段のテレビでお伝えする3分間の天気コーナーでは語りつくせない防災のことについて、みなさんと考えていくこのコラム。第2回は洪水・浸水です。

 

「最近の天気はおかしいと感じますか?」と、講演会などでみなさんにお聞きしますと、大半の方が手を挙げられます。「観測史上1位という言葉をよく聞く」「昔より暑さがひどい」「ゲリラ豪雨が多い」など、様々な声が上がります。

 

データで見る近年の天気

日本の1年間に降る雨量は、100年前と比べてどうなっているでしょうか?

 

(グラフ1)
(グラフ1)日本の年降水量偏差

最近、雨が多いように感じるかもしれませんが、実は100年前と比べて1年間の雨量はあまり変わっていません。グラフ1を見ていただくと、真ん中がここ30年間の平年値で、それより上が雨の多い年、下が少ない年です。近年の特徴は昔よりも振り幅が極端になっていることです。

国内で1㎜以上の雨の年間日数は、昔より減ってきています。しかし、1時間に50㎜以上の非常に激しい雨の回数は増加傾向です。

 

(グラフ2)
(グラフ2)日降水量1ミリ以上の年間日数

(グラフ3)
(グラフ3) 1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数

降る時にはたくさん降る、降らない時には全然降らないというわけです。
そもそも雨という液体は、空気中の水蒸気という気体が元になっています。空気の気温・気圧が下がる、もしくは水蒸気量が増えると空気中の水蒸気は気体としていられなくなって、水滴の液体になります。
地球温暖化やヒートアイランド現象の影響で昔より気温が高くなっていますよね。

空気中の気温が上がると、空気の中に気体として含むことができる水蒸気量は増えるので、湿った空気が入ってきてもすぐには雨として降らなくなります。弱い雨の回数が減ります。ただし、湿った空気が大量に入ってきた時には、堰を切ったように激しい雨が一気に降るという極端な天気傾向になるというわけです。
1983年以降、数年に1度レベル(1時間に100㎜!のような)の短時間大雨に対して気象庁は「記録的短時間大雨情報」を発表していますが、その回数も10年単位で見ると増えています。

(グラフ4)
(グラフ3) 1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数

 

災害0にすると簡単にいうけれど…

雨の水害というのは大昔から存在しています。激しい気象現象は、そこに人がいなければ山が崩れようが、川が溢れようが、自然の営みのひとつです。

ただし、そこに人間社会があることで水害は発生します。人間社会というのは変化し、それによって水害も変化します。人間社会の変化とは、町が変化する・人が年をとるなどです。たとえ同じ大雨でも、水害はいつも同じというわけではないのです。

洪水の備えとしてハード対策(堤防など)をいくら整備しても、水害は変化するため合わせてソフト対策(情報の利用)が必要です。

 

 

イメージすることが大切

(グラフ3) 1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数

水というのは、50㎝浸かれば大人でも動きづらくなります。50㎝というと、だいたい大人の膝くらいの高さです。

扉は、50㎝水かさがあると水圧で開かなくなってしまいます。50㎝というのは、だいたい車のマフラーの高さでもあります。車はマフラーが水に浸かれば動かなくなりますよね。かつて車の窓は手回しでしたが、今や電動です。車の電源が落ちれば車の閉じ込めが発生します。

 

 

アンダーパスなど土地が低い所には水がたまり、車が突っ込んでしまったら動けなくなります。そして、どんどん水が流れ込み、水位が増して車内でおぼれて亡くなるという浸水事故も実際に発生しています。

先ほどグラフで1時間に50㎜以上の非常に激しい雨というのが出てきました。あれは1時間に5㎝分の水がたまる雨の降り方ということです。

それで非常に激しい雨?たった5㎝と思うかもしれませんが、町一帯に5㎝分の水がたまる雨って相当な量なんです。1時間に50㎜以上の降り方になれば、アンダーパスなど低い場所は50㎝くらいの水位なんてあっという間にたまります。1時間に50㎜という雨の強さは、町の排水処理が追い付かないくらいの雨なので、天気予報でこのキーワードが出たら注意の目安として下さい。

近所に水がたまりやすい場所はないか?川や溝の普段の状態を見ておいて、もし溢れたらどうなるだろうか?どこまで危ないか?イメージして事前に備えておくことが大切です。「日常を知らずして非日常に対応できず」ですね。

 

 

地盤サポートマップで浸水想定区域も避難所も

地盤サポートマップで見る浸水想定区域
「地盤サポートマップ」と検索すると、無料でその場所の防災情報が見られるサイトがあり、スマートフォン用のアプリもあります。地盤サポートマップでは、自分の住んでいる場所の地盤が強いか弱いかを知るだけではなくて、浸水想定区域や避難施設まで一括して知ることができます。
浸水想定区域を確認する時は、地盤サポートマップのメニュー項目から「浸水想定区域」を選ぶと、50cm、1m、2mとその土地の想定される浸水の深さに応じて色分けされます。なお、浸水想定区域は、国土交通省が提供しているデータに基づいています。

避難施設に関しては、避難所として滞在できる場所、たとえば学校などが表示されます。
スマートフォン用アプリだと現在地が表示されますので、簡単に今いる場所の情報が1度に調べることができますよ。ただし、広域避難場所や一時避難場所といった、緊急時に避難する場所(公園や神社など)の詳細な浸水想定・津波想定エリアに関しては、市町村が作成しているハザードマップとも合わせて調べていただきたいと思います。

(図1)

避難所マークを探してみよう

 

その場所の情報を知って得することも!?

火災保険には、水害による洪水・浸水や土砂災害による被害の補償も含まれているものが多くあります。洪水・浸水や土砂災害の危険性がない場合は、その項目を削除することで保険料の金額を低くできる可能性があります。

防災対策に備えてみようかなと心に芽生えたら、まずはその土地がどういった所なのかを知ることから始めてみませんか。

 

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蓬莱 大介

気象予報士・防災士。早稲田大学政治経済学部を卒業後、俳優を目指していたが、書店でたまたま気象予報士の資格を知り一念発起。2009年10月に合格し、11年から読売テレビで気象キャスターに就く。レギュラー番組は「かんさい情報ネットten.」「情報ライブ ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」。著書『クレヨン天気ずかん』(主婦と生活社)