2021.04.22法律相談室

判例に学ぶ! 造成地での不同沈下。

 

昨年、東京都調布市の住宅街で道路が陥没した問題は、マスコミに大きく取り上げられました。テレビを視聴した多くの皆様が、付近の地下深くで道路の建設工事を行っていた東日本高速道路に責任があるのではないか? という関心を持ったと思います。

 

では、道路ではなく建物建築地で陥没が生じたり、建物が不同沈下した場合はどうでしょうか?そもそも、建物建築地においては、建築会社が地盤調査を実施し、宅地の安全性について確認する義務を負います。

 

仮に、この地盤調査が十分に実施されず、予期できる沈下事故を防ぐことができなかった場合の責任について解説したいと思います。

 

文=秋野 卓生(あきの たくお)弁護士

 

case 01  異種基礎の建物を建築したことによる不同沈下

一部につき転圧の不十分な盛土上に布基礎を、また一部につき堅固な切土上にベタ基礎に相当する地下駐車場を施工。その異なる形状の基礎を一体的に接続した上に、建物上屋を載せた形状の異種基礎の建物を建築したことから、布基礎部分と地下駐車場部分とで不同沈下が生じた。異種基礎の境界部分では建物が折れ曲がった状態になり、クラックなどの損傷が生じた。

 

 

京都地裁 平成12年10月16日 判決

建築会社としては、地盤の支持力が十分か否かを調査し、支持力の異なる地盤に基礎を設けざるを得ないときは、一体的な基礎を設けた上で、支持力の弱い地盤上の基礎部分には堅固な地盤まで支持杭を延ばし表面部分の基礎を支えるなどの工夫をして、不同沈下を起こさないよう配慮すべき義務がある。

 

その敷地が盛土地盤であることを知りながら、地盤調査も行わず、異種基礎にまたがって各建物を建築したことは、安全性確保義務に違反しているとした。

 

case02 ゴルフ場の建物の不同沈下

ゴルフ場の経営者が建築会社と建築請負契約を締結すると同時に、造成会社と造成工事の請負契約を締結し、それぞれの契約に基づく工事完了後に、造成地上の建物に不同沈下が生じた。

 

 

大阪地裁 平成13年5月14日 判決

建築会社は通常、構造物の支持地盤が十分な地耐力を備えているかどうかを確認し、地耐力が不十分な場合には地耐力を確保するために必要な工事を実施すべき義務を負うため、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を肯定した。

 

また、傍論として、造成会社は、ボックスカルバート(*地下通路・暗渠(あんきょ)等に用いられる工作物)が設置されることを前提として、その支持地盤について十分な転圧を行うべき義務を負っていたと認められるが、転圧しただけでは地耐力が十分でない場合に、転圧以外の工事を実施して地耐力の確保に努めるべき義務までは認められないと判示した。

 

秋野弁護士のポイント解説

―判例では建築会社の責任と判断された

2つの裁判例は、当事者の関係により法律構成は異なったものの、建物の設計・施工を請け負った建築会社が、建物の支持地盤が十分な地耐力を具備しているかどうかを調査・確認した上で、当該地盤に適合した基礎設計を実施すべき義務を負っていたと判断しています。

 

case01では、盛土地盤であるにも関わらず、地盤調査も行わずに異種基礎構造が選定されたという事実関係が重視されたものと思われます。

 

case02 でも、造成会社は、ボックスカルバートの支持地盤について、当時もっとも高い性能を有するとされていた機械を用いて転圧を行ったのだから、地耐力をさらに増強するためには、地盤改良工事あるいは杭打設等の補強工事を行う必要があったものと推認できる」との指摘がなされていることも重要です。

 

建築会社が通常の住宅建築で行われる精度の地盤調査を行っても、施工不良箇所を発見することができなかったと言えるのであれば、建物建築会社に法的責任を負わせるのは酷であると言えます。

 

この場合、通常の精度での地盤調査の結果に従って、適切な基礎や地盤補強等の設計・施工が行われていれば、通常有すべき性能を欠くものではなく、瑕疵はないとの理解も考え得るところです。

 

他方で、地盤調査が不十分であった結果、造成地の瑕疵などに気がつかなかったというケースにおいては、建築会社に対する損害賠償責任が認められる可能性も十分あるものと考えられます。

 

 

 

秋野弁護士

秋野卓生(あきの たくお)弁護士
弁護士法人 匠総合法律事務所代表弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度より、慶応義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

 

 

 

 

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