2019.10.01秋野弁護士の法律相談室

設計責任範囲、どこまでか?

 

今回は、地盤調査とその考察の責任範囲について解説します。建築士事務所が地盤調査会社に調査を依頼し、地盤調査会社が調査結果および考察を提出することは、今や日常的に実施されるようになりました。その考察、例えば「ベタ基礎(工事不要)」を信じて施工したところ不同沈下してしまった場合、誰が責任を負うことになるのでしょうか?

 

地盤調査会社は地盤のプロであり、他方で設計者は地盤についての知見は深くないのだから、地盤調査会社が建物の沈下修正費用を負担すべきでは? といった相談がくることがあります。しかし、我々弁護士は、地盤工事を含む工事の建築士法上の「設計者」は誰か? 地盤調査会社は「設計補助者」ではないか? という視点で法的検討を行います。

 

建築士法20条

建築士法20条は「一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行った場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければならない。設計図書の一部を変更した場合も同様とする。」と定めています。

 

地盤の設計についても、地盤調査会社が設計の再委託先として設計図書に記名押印をしている場合には、地盤調査会社は建築士法上の設計者としての責任を負うこととなります。記名押印をしていない場合、地盤調査会社は建築士法上の「設計者」ではなく「設計補助者」に該当し、設計の最終的な責任を負うものにはあたりません。

 

建築基礎設計のための地盤調査計画指針

日本建築学会編「建築基礎設計のための地盤調査計画指針・第2版」では、下記のように述べられています。

「調査計画および基礎の設計は設計者が行う」(同指針1頁⑤)「基礎の選定および設計は設計者の責任で行うものであるから、調査計画も設計者の責任で行う必要がある。地盤調査業者は設計者の指示を受けて調査試験を行い、設計施工に必要な土性を正確に把握して設計者に示すことがその業務である」(同指針2頁⑤)

これは、地盤調査会社が提案した工法は、設計者が基礎の選定および設計をするに際の参考資料にすぎず、責任は設計者にあるということを示しています。

 

浦和地裁越谷支部 平成11年9月30日判決

「設計施工者が地盤調査会社に調査を依頼。同調査結果に基づいて土地を造成したが、不同沈下が生じた」

 

上記事案については、調査方法を決めるのも調査結果を読んで判断するのも設計施工者であるとして、地盤調査会社には責任がないと判断されました。この判決は、地盤調査業務は設計補助業務に過ぎず、最終的に設計の責任は設計者にあるという、建築士法の趣旨に適合した見解が判断の基礎となっています。

 

 

次に、分業体制における責任範囲について解説します。

建築士法3条、22条、24条

建築士法24条の7、同法施行規則22条の2の2第6号では、重要事項説明書に設計者の記載が求められます。これは、高度で専門的な知識を要する設計業務における最終的な責任の所在を明示しておくためです。

 

建築士法24条の7、同法施行規則22条の2の2第6号は平成20年に改正されました。昨今、建築設計における専門分化を背景に重層的な分業体制が常態化していますが、構造計算偽装事件に代表される分業体制で起きた問題が社会問題化したことから、「その責任の所在を明確化しなければならない」という強い意識が改正の趣旨にあるとされています。

 

この改正趣旨に照らせば、対外的な設計責任者として有資格者の名前が明示されているにもかかわらず、設計補助者が責任の大部分を負うことになれば、分業体制における最終的な設計責任の所在を予め明示するという建築士法の趣旨に反するものとなります。

 

現在、設計の法令適合性を確認するシステムとしては建築確認制度のみであり、「建築基準関係規定以外への法令適合性や建築主の要求への適合性は、建築士である設計者の責任のもと実施する」という建前があるからこそ、担保されているということになります。したがって、上記建築士法等の改正も、有資格者である建築士への信頼を基礎として、分業体制における責任の明確化を図るものといえます。

 

また、建築士法24条の3で、建築士事務所以外への再委託が禁止されているのは、有資格者である建築士事務所が最終的な責任を負うべきという趣旨であることが明らかで、建築士法3条によって建築士が業務独占資格とされているのは、設計補助者の存在を問わず設計業務を建築士に独占させ、その能力により設計の品質を担保するためです。

 

 

加えて、設計における建築士の意義に照らせば、有資格者はその責任の重さと引き替えに、資格が必要な業務の遂行を許されているのであり、かつ自己責任において設計補助者を使用するため、最終的な設計責任を設計補助者に負担させることは、有資格者を不当に利することになる一方、設計補助者の地位を不当に危うくするものであり、建築士法と相容れないということになります。

 

東京地裁 平成21年7月28日判決

「地盤調査会社が複数の地盤改良工事方法を提案。元請会社が最も安価な工事方法を採用したが、事故が生じた」

判決では、工事の発注者である元請人が設計内容の選択者であると判示しています。安価な工法でも「施工可能である」と示した地盤調査会社の責任を否定している点がポイントになっています。設計者には、地盤も含め、建物について最終的な責任を負う立場にあることを改めて確認いただきたいと思います

 

秋野弁護士

秋野卓生(あきの たくお)弁護士

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

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