2020.08.28法律相談室

判例に学ぶ!大雨起因の土砂災害事故は免責か?

令和2年7月豪雨では、多くの被害が発生しました。豪雨に見舞われた結果の土砂災害事故の法的責任については過去の判例があり、これらの知識を持った上で対応する事が大切です。大雨に起因するので、「不可抗力免責として、開発業者・施工業者が責任を負わないこととなるのか?」という相談事例もあります。このような法律相談に対して、まずは、大雨に起因した土砂災害事故等に関する判例としてどのようなものがあるか、そして解説したいと思います。

 

文=秋野 卓生(あきの たくお)弁護士

 

豪雨による崩落で、車が損傷。その責任は?

 

東京地裁 平成8年9月27日 判決

崩落箇所は一部にとどまること、傾斜地にもかかわらず丘陵に接して駐車場が設けられていたことから、丘陵部分に何らかの土留め設備があれば崩落事故は生じなかったとの可能性を否定できない。また、土砂崩れが始まってから車両に土砂が被さるまでの崩落の勢いはさほど急激なものとはいえず、迅速に対応していれば車両の損傷を防止できた疑いがある。車両の損傷が不可抗力によるものとまで認められず、被告は損害賠償の責任を免れない。

 

 

歩道設置工事をした傾斜地の崖崩れに対しての責任は?

 

新潟地裁長岡支部 平成23年12月7日 判決

崖崩れは、記録的な量の降雨を原因として発生したものといわざるを得ず、工事によって敷設された歩道の設置管理に瑕疵があったとは認められない。よって、歩道設置工事施工及び設置管理者である自治体の損害賠償責任が否定された。

 

 

国道路体の一部が集中豪雨により決壊。家屋倒壊の責任は?

 

津地裁 昭和52年3月24日判決

事故時の降雨が異常な集中豪雨であり、国道311号線沿いに崖崩れや土石流の発生等による多数の被害があったこと、今回と同程度の降雨が以前にもあったこと、約1年3か月前に開設された農道が斜面の安定上好ましくないとされていることが認められた。さらに、側溝設備の不完全等があいまって今回の災害が発生したとされ、一般の科学技術水準に照らし予測不可能あるいは回避不可能であったとの証拠も不十分として、道路の設置管理の瑕疵を認めた。

 

 

自宅裏の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。

自宅裏の崖が土砂崩れを起こし、それに巻き込まれて亡くなった方のご遺族らが、死亡は被告町及び被告道が同崖に施した工事による営造物の設置又は管理に瑕疵があったためであり、仮にこれが認められないとしても、町には避難勧告義務違反があり、同崖に防災工事等を施す等の作為義務に違反したとして、被告らに対し家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案

事件当日午前0時ころには総雨量が45mm、午前5時ころに総雨量は105mm、午前5時から6時までの雨量は42mmとなり,午前7時までの総雨量は157mmに達した。

函館地裁 平成13年9月27日 判決

本件営造物は落石防止を主目的としたもので、被告らに設置又は管理上の瑕疵はなく、被告町が避難勧告を発令しなかったことが著しく不合理で国家賠償法上違法とはいえず、また、被告道が同崖の崩落を客観的に予見できたとはいえない。

 

 

有料道路の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。

有料道路である九州自動車道を、自動車に乗車して走行中、土砂崩れに巻き込まれて死亡した者の遺族らが、道路管理会社に対して、選択的に、安全配慮義務に違反した債務不履行、民法709条又は717条に基づく損害賠償を請求した事件の前々日午後5時から同月25日午前10時にかけて,300.5mm本件事故当日午前5時ころから再び集中豪雨が発生し,午前9時から午前10時まで時間降雨量は57mm、午前10時までの連続雨量は184mm

 

福岡地裁小倉支部 平成24年6月6日判決

被告には,本件現場付近に監視車両を派遣して土砂崩れの前兆の有無を点検し、その手前に電光掲示板を搭載した車両を配置して速度規制をするとともに、事故当日の午前10時には通行止め規制を実施して、発生する可能性のある土砂崩れ等に巻き込まれるのを防止すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があったものということができる。

 

次に、法的解釈のポイントをご説明します。

 

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