雨漏りクレーム対応は、迅速な調査と補修がカギ!
文=秋野卓生(あきの たくお)弁護士
今回は外壁下端の水切りが不十分であったため、同箇所が室内・躯体内への雨水浸入のきっかけとなり、裁判となってしまったケースを解説します。
事案の概要
躯体の腐食や室内の汚損などの被害を生じさせ、施工者・監理者に対して多額の損害賠償が命じられた事案です。
本件は、新築ペンションの所有者である原告らが、その建築工事に重大な瑕疵があり損害を被ったと主張して、請負者の被告(以下「被告会社」という。)及び監理者に対し、請負契約上の瑕疵担保責任及び不法行為を理由に損害の賠償を求めた事案です。
被告らの損害賠償責任の存否が争点となりました。
東京地判平成3年12月25日(昭和62年(ワ)第367号)
裁判所の判断
1. 一階床及び壁面への浸水は、外壁下端すなわち土間コンクリートの布基礎とその上に乗せられている木材との間に水切り処理がなされていないうえ、土間コンクリートの上に直接床材(畳・ジュータン)が敷かれている。
雨水が木材と土間コンクリートの間隙から毛細管現象によって浸入することによるもので、水分が土間コンクリートに直接敷かれた床材に繰り返し吸収されるほか、土台、スタッド、壁のプラスターボードも水分を吸い上げるため、天井を除く内装材が常時湿った状態となる。
2. 土間コンクリートと布基礎の間に断熱材を敷いていないため、冬季には土間コンクリートの表面で温度差による結露が生じ、これによる水分が床材に吸収される。
3. 土台下に防水紙を敷いていないことが更に事態を悪化させている。土間コンクリートと布基礎の間に断熱材を敷くこと、水切り処理を施すこと等は、この種の建築工事の基本に属することであり、これらを欠いていることは重大な工事瑕疵に当たる。
<結論>
本件契約の請負者である被告会社は、工事の設計・施工につき、また、被告会社の代表取締役であり、本件契約の監理者は、本件建物の設計・監理・施工につき、それぞれ十分な注意をなすべき義務があるところ、前記工事瑕疵はいずれも建物建築上の初歩的部分である。
一階床組の構造については明らかな設計ミスがあり、雨仕舞・断熱・防水工事については施工・監理のミスがあったというべきであるから、被告らは、瑕疵担保責任及び過失による不法行為責任を免れず、工事瑕疵によって原告らの被った損害を賠償する責任がある。
上記裁判例においては損害として次の内容を認めています。
① 補修工事(躯体の工事含む) 3,614万円
② 仮住まい費用・営業損害 150万円
③ 慰謝料 300万円
判例から学ぶ教訓
本件は、雨水が、外壁下端すなわち土間コンクリートの布基礎とその上に乗せられている木材との間から浸入し、これが毛細管現象によって浸入するという原因の特定が非常に難しい現象として生じた事案でした。
裁判では、この雨水浸入経路が審理過程で明らかとなり、施工者に多額の損害賠償が命じられる結論となりました。
施主からのクレーム発生時には、直ちに原因を特定し補修を施すことで、損害が確定しないように努めることも住宅会社の危機管理として必要であることを明示する判決といえるでしょう。
秋野卓生(あきの たくお)弁護士
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

JHS LIBRARY 編集部

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