「たった1人に好かれるための価値観」貫く/小川建美
「お客さま自身が自由に選び家をつくること」にこだわりを持つ、岡山県の小川建美さん。毎年秋にはOB顧客を招いて『おがけん大運動会』を開催するなど、出会えた人たちとの縁を育み続けています。
そんな同社のまとめ役は、社員に“お父さん”と慕われるほど人情味あふれる小川賢一社長。お話からは、お客さまはもちろん、社員も大切に想う気持ちが伝わってきます。
取材・文 = 松本めぐみ(新建ハウジング)
商品は『楽しい家づくり』
小川建美さんが提供する『DIYホーム』は、部材や工事などの価格が細かく明記されている「メニュー表」から、お客さま自身が一つひとつ項目を選んでつくりあげる家のことです。「限られた選択肢の中から“決めさせられる”と、せっかくの夢のマイホームづくりが“疲れること”に変わってしまいます」と小川社長。
「私たちの商品は『楽しい家づくり』という体験(コト)です。一生に一度の買い物を、かけがえのない経験にしてほしいんです」と熱く想いを語ります。
総ページ数21ページにもおよぶ「メニュー表」は、材料の単価からクロス張りの施工費まで、家づくりに必要な要素がびっしりと並んでいます。顧客はこのリストから必要なものだけを自由に選択し、見積もり額を確認しながら家をつくります。もちろん、メニューに載っていないことでも、要望があれば随時対応。

部材や工事などが顧客にもわかりやすくまとめられているメニュー表
「必要なものを選ぶことは、必要でないものを選ぶことにもなる。無駄を省いた家づくりにつながります」と、小川社長は顧客が安心して家づくりに臨める自社のメニュー制(価格制)に自信を見せます。
誰にも嫌われない努力より、誰かに好かれるスタンスを
同社社員の正装は、なんと私服。スーツから私服に切り替えたきっかけは、今から15年前にさかのぼります。当時の同社は、バブル崩壊の影響を受け、経営危機に陥っていました。地場工務店から拡大路線へと舵を切り、ハウスメーカーさながらの営業手法を繰り返す毎日。しかし、どれだけ努力を重ねても、顧客に自社を選んでもらえない日々が続きました。
そのタイミングで舵取りを任された小川社長は、「10人中10人に嫌われないことをし続けても意味がない」と決断。
正装を無難なスーツから個性豊かな私服に着替えたり、住宅をブランド商品として展開し標準仕様の中から“選ばせる”手法をやめたりと、自社の方針を大転換。一歩ずつ着実に改革を進めた結果、見事に経営を立て直しました。
「年間40棟しか建てない当社は、10人中たった1人が好きと言ってくれればそれでいい」と小川社長。「 “なるべく多くの人に嫌われないスーツ”ではなく、“誰かに好きになってもらえる私服”を着ることが、当社の『楽しい家づくり』にもぴったり合う」と話します。実際に顧客からも「私服の方がその人の人間性がわかって話しやすい」と好評だそうです。
交流ひろがるOB参加の大運動会
そうして出会えた“たった1人”との縁をなによりも大切にする同社。毎年秋には、岡山ドームを貸し切ってOB顧客を招き、『おがけん大運動会』を開催しています。
13回目を迎えた昨年は、450人もの参加者が大集合。引き渡し後の顧客だけでなく、打ち合わせ中・建築中の顧客も多数参加し、会場は盛り上がりを見せています。
企画・運営を主導する「運動会実行委員」には、その年の4月に入った新入社員や、社内選挙によって選ばれた社員が就任します。運動会のテーマに「バンザイ!」を掲げた今回は、各家族で協力してゴールを目指し、最後にバンザイポーズで記念撮影をするオリジナル競技「君に会えてよかったレース」を新しく考案。何度も参加するOB顧客を飽きさせない工夫も怠りません。
ジャパンホームシールドの松尾さんも、スタッフとして参加したことがあり、小川社長は「かけっこのスターターで彼の右に出る者はいませんよ」と松尾さんの腕を絶賛します。

玉入れやダンスなど、子どもたちも楽しく参加できる競技が盛りだくさん。参加者は毎年増え続けており、OB顧客にとって欠かせない行事として確立された
運動会当日までの間、同社ホームページ上の『おがけんブログ』では、準備中の様子を発信しています。OB顧客からの応援コメントが付いて、スタッフや別の顧客との交流の場になることもしばしば。スタッフのみならず顧客の間でも、恒例行事としてしっかりと根付いています。
つたわる愛社精神
運動会の準備も行える広々としたオフィスの壁には、社員手作りの一風変わった掲示物が所狭しと貼られています。たとえば『メンテナンスエクスプレス』は、「定期点検が完了したら広島駅」など、アフターメンテナンスの工程を新幹線の博多駅~東京駅間に置き換えて表現したもの。工程が進むごとに顧客名の札を動かすことで、誰が見ても一目で状況が分かる便利な仕組みです。

数ある掲示物の中でひときわ目を引く『メンテナンスエクスプレス』。社員自らシステムを考えて制作した渾身の作だ
このような掲示物は、社員が自主的にプロジェクトを結成して制作したもの。小川社長は「木の上から見守っているだけ」なんだそう。こんなにも自社を大切に想う社員が多いのは、「成果だけでなく、社員個々人をお父さんのようにしっかりと見てくれている小川社長のおかげ」と、入社7年目の企画部・岡本阿弓さんは感謝の気持ちを表します。

左から、企画部の岡本阿弓さん、小川賢一社長、企画部の藤井満理子さん。小川社長を“お父さんのようにあたたかい人”と慕う
実は同社は、全社員25人中22人が新卒採用で入社した社員。あとの3人も、15年前の経営危機時に会社を救うべく残った社員です。現在は2年に1度のペースで新卒採用を続けており、社員数は増え続けているそう。
「たとえ小川社長が『明日から当社はうどん屋になる!』と宣言したとしてもついていきます」と話すのは、新卒採用で入社し5年目になる企画部・藤井満理子さん。就職活動時に小川社長に会ったことが入社の決め手だったそうです。自社を愛する気持ちが脈々と受け継がれていることがうかがえます。

自分の名前と目標が書かれた額縁(左)と、その日の気分によって自由に選びデスクの上に置くオリジナリティあふれる立て札(右)
そんなあたたかな雰囲気が顧客にも伝わるのか、最近は特に「小川建美がいい!」と決め打ちで選ばれることが多いという同社。今後の目標は「社員数を全世代網羅できる40人まで増加」させ、「全社員を満足に食べさせられる規模まで会社を成長させる」こと。顧客のみならず社員まで自然体でいられる小川建美さんの『楽しい家づくり』は、“たった1人”からつながる輪を育みつつ、今後も地域の豊かな暮らしを支えていきます。

オフィスに入ってすぐにある受付は、小川社長の指定席

JHS LIBRARY 編集部

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